スペシャル粋トーク

2013年 春号

神戸から真の国際人を育てたい

かしの 大学院を卒業後、スウェーデンに行かれた理由は。

清原 大学院ではギリシア史を専攻していたのですが、そのまま大学に研究職で残ってもポストがなく、講師になれるのは30~40年先かなというくらい見通しが立ちませんでした。いっそのことギリシア史研究の本場であるドイツに行こうと考えたのですが、たまたま友人がストックホルムでアルバイトをしていて「こっちへ来い」と。それからストックホルムに飛び、アルバイトをしながらスウェーデン語を勉強しました。そうしているうちに大学で東洋史を教えるようになり、一方で北欧が発祥とされるヨーロッパ古代文字、ルーン文字の研究や北欧中世史の研究をしていました。スウェーデンの大使館で一等通訳官も務めました。

神戸市生まれ。関西学院大学大学院を卒業後、スウェーデンへ。ストックホルム大学講師を務め、帰国後は北海道東海大学教授としてヨーロッパ中世史、スウェーデン語などを教えてきた。著書に「スウェーデン神話現代版」「蝕まれる人間工業化と精神的環境破壊」ほか多数。

かしの 当時のスウェーデンはどんな国でしたか。

清原 アルバイトをして驚いたのが、給与が日本の10倍くらいだったことです。当時のスウェーデンは世界最高の生活水準だったのではないでしょうか。

かしの スウェーデンと言えば福祉大国。日本もスウェーデンに学ぶべきという意見がありますが。

清原 実際に現地で暮らしてわかったことですが、給与の半分が所得税で引かれ、消費税は25%ということは、ぜいたくはできないということです。高い税金の見返りとして住宅、医療、教育など最低限の生活の保障は得られますが、自分の好きなことに使えるお金は限られています。ですから着ている服もとても質素で、貧富の差もけっこうあるのです。経済が成長していた時代はまだよかったのですが、今は国が成熟して税収も下がり給付はどんどん切り下げられ国民の不満も高まっています。私だったら日本での生活を選びますね。セーフティネットは最低限にすべきです。

かしの 日本の農業も過保護にしたがゆえに衰退しました。

清原 その過保護の財源は税金ということに思いを至らせなければなりません。

かしの 日本のサラリーマンは税金が天引きされているから、どうしても納税意識が薄くなってしまうのでしょうね。

清原 自分たちが税金を払っている意識を強く持って、税金がどう使われているかを見届けることが大事です。それが社会のことを考えることにつながります。

樫野孝人(かしのたかひと)/須磨区在住・昭和38年生まれ
樫野孝人(かしのたかひと)/東灘区在住・昭和38年生まれ

飛松中学、長田高校、神戸大学卒業。リクルートを経て、(株)IMJの代表取締役社長に就任し株式公開。2009年神戸市長選挙に立候補するも惜敗。現在、(株)OKwave取締役、Kiss FM取締役を務めながら神戸リメイクプロジェクト代表として神戸の活性化を推進中。また広島県庁の広報統括責任者、京都府参与として地方自治体の改革も手掛けている。新著は「地域再生7つの視点」(カナリア書房)

かしの 清原さんは若くして海外に出たわけですが、今の若い人は我々の若い頃と違ってあまり海外には出たがらないと聞きます。

清原 私は、海外で何をしたいというよりまず行くことそのものが憧れでした。子どもの頃、そごうの西側に米軍キャンプが広がっていたのですが、アメリカ人が傍若無人でしてね。言葉を覚えていつかやっつけてやろうと思っていました。でもやはり憧れでした。ところが今の学生たちに話を聞くと「行きたくない」と言います。逆に「なぜ行かなければいけないんですか」と想像もしない質問が返ってきます。日本で満たされているということなんでしょうね。だからなぜ行くのか、その答えを大人が用意しないといけない。「行けば何かある」ではなく「行けばこういうことで役立つ」と。

かしの 神戸から若い人がどんどん外に出て、いろいろな経験を積んで戻ってきてほしいですね。

清原 神戸には神戸市外国語大学という財産があります。日本には実は外交官を養成する大学がありません。神戸市外大がその役割を果たせないかというのが私のアイデアです。特に教えるべきは交渉能力ですね。そうやって目的を特化すれば学生も集まってくる。そして大学が費用を持って海外に留学してもらい戻ってきたらしっかり還元してもらう。

かしの 魅力的な大学にするためにも特長を出していくことが大事ですね。ありがとうございました。

かしのたかひと今回のツボ

教育が何のためにあるかというと、大人になって食っていける自分を作るため、そして社会の役に立つため、国を守るためだと私は思います。私の子ども時代には英語教育が始まり35年以上経ちますが、いまだに日本人の語学力は国際社会で通用するほど習熟していないと聞きます。当時の外資系と言えば欧米企業を指していましたが、今の子どもたちが大人になる頃の外資系企業は中国や韓国の企業を指すようになっているかもしれません。外交問題とは別に、13億の人口を持ち、世界第二位の経済大国となった中国、日本の家電メーカーの苦戦を横目に躍進する韓国と丁々発止の議論ができる語学力や交渉力は身に付けていかなければならないでしょう。清原先生がおっしゃるように、神戸が国際港湾都市であるならば他都市より語学に秀でた人材を輩出していく役目があるかもしれません。その意味を大人がしっかり伝えないといけないのだと思います。大分県の立命館アジア太平洋大学は日本人と留学生が半分半分で、日英二言語教育システムだとか。秋田県の国際教養大学はすべての授業が英語で行われ、全員が留学をし、三言語主義を徹底しているそうです。当然就職率もかなり高いようです。神戸市の外国語教育、もっと特色があっても良いのではないでしょうか。

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