スペシャル粋トーク

2014年 春号

厳しく、温かく、で困難にたじろがない子どもに

坂野 現在は、小学生の塾から大学受験の予備校まで幅広く教育事業を展開されています。教育の道に進むことになったきっかけは。

増澤 子どものころは学校に隠れて映画を観にいくほど、どっぷり映画に漬かった日々を過ごしていました。すべてのことは映画から学びました。映画にかかわる仕事に就きたいと思い、大学在学中から映画作品のシナリオライターをしていました。42本が作品になりました。ただ、30歳前で限界を感じまして、まったく新しい場所で仕事をしようと考えました。
映画のシーンに数多く登場し、憧れを持っていた神戸の街に妻とともに移り住み、そこで始めたのが塾です。お金がなかったので、専門学校に頼み込んで日曜日に教室を貸してもらうことにしました。1教室1日あたり3千円で4教室分、それを1カ月ですから月に4万8千円に抑えることができました。

坂野 日曜日だけでどのように教えたのですか。

増澤 週1日では知識はなかなか教えられません。そこで平日にたくさん宿題を出し、日曜日はお互いに刺激しあい、交流する日にしました。その代わり、週に2回、子どもたちに激励電話をしました。そのときに保護者にも話を聞いて、勉強の進捗や家での様子を聞き、一人ひとりの子どもたちと向き合ったのです。加古川や姫路の方へも広げていき、10年で生徒の数が西日本で1万人にまで増えました。

株式会社ティエラコム代表取締役社長。一般社団法人日本青少年育成協会会長。熊本県人吉市生まれ。早稲田大学商学部卒業後は映画助監督、シナリオライターに。1976年、学習塾「能力開発センター」を神戸に創業。2000年、社名を現在の「株式会社ティエラコム」に改称。03年より東進衛星予備校を開校し、大学受験市場に本格的に参入。自ら教育現場に向かい、スタッフと膝を交えて教育の本質を探る研修を行っている。

坂野 勉強を詰め込む塾とは一線を画していたのですね。

増澤 そうですね。他とは違うことをしようと思っていましたから。10周年記念事業として岡山県の牛窓に研修センターを作りました。そこで世界の子どもたちを集めて交流し、意見を交わしたり、環境問題をゲームで学ぶ世界ジュニアサミットキャンプを開きました。私たちの目的は、一人で生きられる力を養うことです。公教育に対し提案し、時にはブレーキをかけ、公教育でできないことをやろうとしています。2000年にすべての子どもたちとパソコンでつながるようにしたり、植林活動を始めたりしたのもそうした試みのひとつです。

坂野 「困難にたじろがない ひとりで勉強できる子に」を教育理念に掲げておられます。そのためにどんな工夫を。

増澤 授業には一斉授業、個別授業、映像を使う授業の3つがあります。個別授業では、子どもたちに寄り添いすぎてしまうことがあります。聞かれたことにすべて答えてしまえば、教えないとわからない生徒になってしまいます。私は『教えない教育』こそ大事だと考えています。魚を与えるのではなく、釣り方を教えるということです。なんでも教えて子どもたちに楽をさせるのではなく、子どもたちを引き上げることが大切です。あえて困難な状況を作り出し、自力で乗り越えていく機会を与える。そして子どもの成長や小さな変化をも見逃さず、ほめて励ますことこそ指導者の役割だと思っています。厳しくかつ温かく接することが教育には大切だとつくづく感じます。
また、大学受験予備校では、高校生が4~8人単位のグループに分かれ、テストの向上得点を競い合っています。勉強をしない生徒があれば、なぜ勉強しないのかをグループで考え、励まし合いながら勉強をしています。

坂野 雅(ばんのまさし)/東灘区・昭和51年生まれ
坂野 雅(ばんのまさし)/東灘区・昭和51年生まれ

株式会社ARIGATO-CHAN代表取締役社長。甲南大学経済学部卒業後、広告会社の博報堂を経て、株式会社ARIGATO-CHAN設立。『NUNOBIKI NO MIZU』を代表作として、観光を切り口に、ハートフルな企画で、地域活性化に繋がる各種プロジェクトのディレクションや企画立案等、幅広く携わる。また『街そうじ』をプロジェクトにした全国で活動する『Green bird神戸チーム』のリーダーも務める。
http://arigato-chan.com/

坂野 あこがれてやってきた神戸の街のことを今、どのように見ていますか。

増澤 阪神・淡路大震災が起きたとき、神戸の本部がだいぶ傷みました。私はすぐに姫路に本社を移そうと考えました。するとある知人から「神戸から逃げる気か」と言われ、はっとしました。結局神戸に残ることにしたのですが、そのときを境に神戸に対する見方が変わりました。単に好きだった神戸の街に、愛着がわくようになりました。

坂野 神戸に住んでいる人たちは、神戸の街に対する愛着が薄いのではないかと私も感じています。神戸に愛着を持つ人を増やすにはどうしたらよいでしょうか。

増澤 私自身もそうでしたが、今、特に困っていることがないから、この町をどうにかしなければいけないという気持ちにならない人が多いのではないでしょうか。ところが、神戸のことをいろいろな方からうかがい、さまざまな問題を抱えていることを知りました。だからこそまず知ることが大切なのではないでしょうか。その上で、私共ができることとして、教育の分野でお役に立てることがあればと考えています。

ばんのまさし今回のツボ

『自由度の高い仕事をしたかったので、もっともなりたくない仕事が、経営者であり教育者だった。でも、今は、いちばんやりたくなかったことをしている。』初めのお話から、驚きのスタートでした。
映画少年から、映画のシナリオライター、そして、神戸での学習塾『能力開発センター』の開業。日曜日のみ、週1回しか開催できないことが、逆にノウハウになり、詰め込み式の塾との差別化につながり、時代のニーズとともに拡がり10年で生徒数が1万人になったお話。
現教育は、多才な人材が育たない考え方になっていて、教えないとわからない生徒が増えている。魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教える。考えさせる事が大切で、自立教育を実践し、教育の仕事として、本質的なコトを伝えたい。
会社名のティエラは、スペイン語で地球の意味。豊かな地球を残す未来の子供達の為になることをしていきたい。
教育目標である『地球サイズの人づくり』物凄く共感させて頂きました。
最初のお話は、びっくりしましたが、情熱と希望に満ち溢れ、自分が望む道を歩き、全てを体現されてきた増澤さんの道は、必然の流れの様に思えました。魂が宿っている言葉は、すべて、心にワクワク響きました。
今後、グローバリゼーションが進んでいく中、心の豊かさが大切になり、あらゆる課題に、自分事化しながら、楽しく学んでいく事ができる地球サイズの広い視野の人が増えていく世界になっていけば、ますます神戸の未来も楽しみですね!!
増澤さんの様な熱すぎる先輩がいらっしゃる神戸。ますます大好きになりました。

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