スペシャル粋トーク

2010年 夏号

神戸からファッション文化を

神戸の人は本格志向

かしの 藤本さんの服作りの原点はどこにあるのですか。

藤本 日本は戦争に敗れた後、勝者であるアメリカの言うままに何の抵抗もなく日本の伝統文化を捨ててしまいました。食べるものも、着るものもない中で日本の女性は洋裁を学び、民族衣装である着物に帰ることを忘れてしまったような気がします。敗戦から20年近く過ぎたころ、私はヨーロッパを旅行する機会を得ました。その時、乾燥したヨーロッパの気候を肌で感じ、湿度の高い日本で、ヨーロッパの服装と同じ型の衣装を着る不自然に気づいたんです。この旅行がきっかけとなり、日本人が長い時間をかけて日本の気候風土に合わせて作り続けてきた日本の伝統の布地でドレスを作ってみようと考え、これをライフワークとしてきました。

かしの 神戸は外からはおしゃれな街として見られています。

藤本 神戸大学の米花先生は、神戸の街は4種類の人たちによって形作られたとおっしゃっていました。1868年に神戸港が開港したときに東京からやってきた中央官僚、貿易をしようと住み着いた外国人、在郷の金持ち、そして一旗あげようと神戸にやってきた九州や四国の次男三男坊たちです。神戸に住み着いた人は隣の外国人の生活を身近に見て、本物を見てきた。だから神戸の人は本格志向なのです。その歴史も踏まえ、ファッションに振り回されず本当に美しいものは何かということを神戸の人にはしっかりと持っていてほしいと思っています。

かしの 1973年に神戸はファッション都市宣言をしました。

藤本 戦後間もない頃、私は東京の神田駿河台にある文化学院で学びました。当時、院長だった西村伊作先生は「芸術がわかるように小さいころから良質なものを見て、食して、身に着けていた貴族階級が戦争でつぶれてしまった。これから文化を支えるのは行政だ」とおっしゃいました。そして、1973年に神戸が日本で初めてファッション都市宣言をしたことを考えると先見の明があったのだなと感心します。でも日本の行政の人たちはなかなか文化を理解しにくいようです。

神戸兵庫県立第二高等女学校卒業。小川洋裁学院を卒業後、東京駿河台文化学院美術部に学ぶ。1954年にオートクチュール・マーガレットを神戸に開店。1968年に日本の伝統素材による現代ドレス第1回の発表をして以来、東京、京都、上海、杭州などで精力的にショーを開催。1979年、コウベファッションモデリストを結成、会長に就任。1997年にはオートクチュール・パリコレに参加。以降、モナコ、ニューヨーク、フィレンツェでもショーを開く。神戸新聞文化賞、神戸市文化賞など数多くの賞を受賞。

多くの人を神戸ファッション美術館に

樫野孝人(かしのたかひと)/須磨区在住・昭和38年生まれ
樫野孝人(かしのたかひと)/東灘区在住・昭和38年生まれ

飛松中学、長田高校、神戸大学卒業。リクルートを経て、(株)IMJの代表取締役社長に就任し株式公開。2009年神戸市長選挙に立候補するも惜敗。現在、(株)OKwave取締役、Kiss FM取締役を務めながら神戸リメイクプロジェクト代表として神戸の活性化を推進中。また広島県庁の広報統括責任者、京都府参与として地方自治体の改革も手掛けている。新著は「地域再生7つの視点」(カナリア書房)

かしの その頃と比べると神戸のファッションが元気を失っているような気がします。

藤本 当時、官民で作った神戸ファッション協会に女性として参加していたのは私一人で、他は、神戸市の方やアパレル、真珠業界のトップの方たちでした。協会の方たちが集まるとどうしてもファッション産業、すなわちお金儲けの話にばかりなっていました。私は、ファッションというものの中には経済の世界と文化の世界があり、文化の世界をおろそかにしてはならないと主張してきました。たとえばパリのファッションで言えば、オートクチュールは文化です。着られないかもしれないけれど、それは芸術的で世界の美をリードしています。その花火が上がっているからこそ、そのブランドのハンドバッグや口紅が売れるわけです。フランスでは国がそこにお金を出して世界のファッションリーダーになっています。

かしの ファッション都市として神戸はこれから何に取り組んでいくべきだと思われますか。

藤本 神戸ファッション協会では20年近く人材育成のためにファッション・コンテストを開き上位入賞者を毎年、パリ、ロンドン、ミラノに留学生として送り続けています。この取り組みは他都市に誇れる文化的な取り組みです。私が70歳のときに初めてパリでオートクチュールのコレクションに参加したのですが、その道を開いてくれたサンディカル校のオルガ・ソーラ院長は、六甲アイランドにある神戸ファッション美術館を見て、「このようなすばらしいファッション美術館は世界のどこにもない」とおっしゃいました。こうした文化面の取り組みにいっそう力を入れていくべきです。

かしの これからしたいことは何ですか。

藤本 友人で作家の新井満さんに「人間は30までが自分探し。60までで完結し、60過ぎたら奉仕。だから藤本さんは奉仕ばかりしてたらいいよ」と言われています。今気になっているのは神戸ファッション美術館の集客をもっと増やすことです。私がこれまでに培った人脈、知識を総合し、企画からお手伝いして人が集まるようにしたいと思っています。

かしのたかひと今回のツボ

切れ味鋭いトークに、ただ感服するばかり。「私は好きなことをして好きなことを言っているからストレスが全く無い!」と言い切るかっこ良さ。元気のオーラはそこから出ているような気がします。そして、これからの神戸の文化振興の鍵は、やはり異文化人材の融合、守破離。諸先輩の知恵を提供いただけると、きっと上手くいくと確信しました。

取材協力

トゥーストゥース・ガーデンレストラン

緑美しい庭を望む開放的なフレンチダイニング。夏季は屋上ガーデンテラスで夏の夜を満喫するフレンチビアガーデン(女性3500円・男性3800円/お席120分、フリードリンク90分)が人気です。(予約がベター、9/30まで)

TEL.078-230-3412
神戸市中央区御幸通8-1-6 神戸国際会館11F
11:00~23:00(ビアガーデンは、17:00~21:30)

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