スペシャル粋トーク

2011年 秋号

自立する市民の力を巻き込み、広げる

サラリーマン、書店経営経て、ギャラリー運営へ

かしの ギャラリー島田ではどのくらいの展覧会が開かれているのでしょうか。

島田 年間50回ほど開いています。作家には必ずこの場に来てもらうようにしており、ここからさまざまな交流が生まれ、創造が創造を生むような画廊でありサロンでありたいと願っています。七割方は兵庫県内の作家ですが、東京や九州からもぜひここで開きたい、とやって来られます。

かしの もともとは三菱重工のサラリーマンだったそうですね。

島田 神戸高校では合唱部に入り、ピアノも弾けないのに指揮者をしていました。神戸大学でもグリークラブで指揮者。安定した生活の中で趣味の音楽が続けられるのではと考え、就職先に選んだのが三菱重工です。そこでも職場の合唱団の指揮を続けました。30歳の時に、義父に請われて元町商店街にある海文堂の経営に携わることになりました。当時、すでに書店経営が厳しい時代に入っていましたので、売場を改装し児童書コーナーを広げる一方で、社長室をつぶし画廊を設けました。10年前に社長を退き、ギャラリーを北野に移しました。だんだんと自分のやりたいことに近づいてきたなと感じています。

かしの 神戸の文化度についてどのようにご覧になっていますか。

島田 海文堂に画廊を開設したころは、神戸にはまだ画廊もコンサート会場も少なかった。でも、その後ポートピア博覧会が開かれ、行政主導による美しい神戸を目指したまちづくりが進められると、アートの世界も引きずられるように勢いづいていきました。ただ、画廊は増えたものの、平板になってしまった印象を受けます。暮らしの豊かさの中で文化を楽しむ裾野こそ広がったものの、アートを根っこから育てていくだけの奥行きは残念ながら感じられません。

かしの 神戸というまち全体が奥行きを失ってしまっているのでは。

島田 まちづくりでも同じことが言えます。コンセプトがにぎわいづくり一辺倒になってしまった結果、当たり障りのないみやげ物を売るようなお店やどの地域にもあるようなチェーン店ばかりが増えてしまいました。節度のレベルが下がってしまっているんですね。まちに陰影を作り、奥行きを生み出すには、個々のお店が闘わなければなりません。商売の基本は、「辛抱すること」だと思っています。だから、「1%の人を視野に入れて頑張れ」と言いたい。1%の人が認めてくれるコンセプトで闘えばいいのです。神戸市の人口は150万人ですから、その1%でも1万5千人。その人たちに必要とされる店が集まれば、まちに魅力が生まれるのではないでしょうか。

神戸市生まれ。神戸高校を経て神戸大学経営学部卒業。三菱重工業に勤務した後、神戸・元町の海文堂書店社長に就任。79年、書店内に海文堂ギャラリーを創設。2000年に北野に同ギャラリーを移転し、ギャラリー島田を開設した。アート・サポートセンター神戸代表。このほど「絵に生きる 絵を生きる 五人の作家の力」(風来舎)を出版した。

自分たちに何ができるかを考える時代に

樫野孝人(かしのたかひと)/須磨区在住・昭和38年生まれ
樫野孝人(かしのたかひと)/東灘区在住・昭和38年生まれ

飛松中学、長田高校、神戸大学卒業。リクルートを経て、(株)IMJの代表取締役社長に就任し株式公開。2009年神戸市長選挙に立候補するも惜敗。現在、(株)OKwave取締役、Kiss FM取締役を務めながら神戸リメイクプロジェクト代表として神戸の活性化を推進中。また広島県庁の広報統括責任者、京都府参与として地方自治体の改革も手掛けている。新著は「地域再生7つの視点」(カナリア書房)

かしの 神戸の文化度を高めていくにはどうしたらいいのでしょうか。

島田 商店街にしても文化団体にしても行政を頂点に組織化されてしまっているところに活力が失われている一因があると感じています。マージナル(辺縁)から創造は生まれるのに、組織のムラ構造がそれを排除してしまっている。そのために市民の足腰が弱ってしまっているのです。リハビリをしながら市民が健康体になることが求められています。もはや自分たちに何ができるかを考える時代になっているのです。

かしの 神戸文化支援基金などの活動を通じて、島田さんはまさにその実践をなさっている。

島田 故・亀井純子さんからいただいた寄付をもとに1992年に創設した基金が名称を変えて神戸文化支援基金となり、今年から毎年300万円づつ芸術家の活動資金として助成しています。これだけの助成ができるのは、市民や企業からの寄付があるからです。そのようにして自立する市民を巻き込んで、静かな輪を広げていくことが大切だと思っています。しっかりと活動を続けることで寄付をしてくださる市民のプライドを刺激し、市民社会のモデルを神戸から発信できればと考えています。

かしの これからやってみたいことは。

島田 基金の活動もそうですが、組織にしてしまってはいけない。私でなくてもだれがやっても続けていける「装置」にしていかなければならないと思っています。高い理念を掲げ、時間はかかるけれども一歩一歩進んでいきたいですね。

かしの ありがとうございました。

かしのたかひと今回のツボ

プライドを持って商売をする、だからこそ強い光を放つことが出来る、そんな心意気を教えていただきました。島田さんの凛としたカッコ良さは、そこから来ていると思います。1%の人に深く愛される店や商品を提供することが商売のツボであるという言葉も今風に言えばCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)の原点とも言えます。多目的は無目的、八方美人になる前に少人数でも良いので熱狂的なコアファンを掴むクオリティが今まさに求められているのでしょうね。さて、島田さんが今構築している装置が「アート・エイド・東北」。アートを通じて東北への支援活動をされています。アートを見て買うも良し、トークショーに参加するも良し、シンプルに義援金を送るも良し。被災地が文化の力で立ち上がるために、関心のある方は是非。

取材協力

ギャラリー島田

地下企画展示室と、1階のDEUX、合わせて年間約50回の企画展を開催し続ける。作家来廊を原則として、有名無名を問わず、真に力があり意欲のある画家を紹介している。

TEL.078-262-8058
中央区山本通2-4-24リランズゲートB1

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