スペシャル粋トーク

2012年 春号

街の色気は、街の深み

「ハートカクテル」は、神戸が描かせてくれた。

かしの わたせさんのご両親は、たしか九州小倉と北海道室蘭のご出身で、おふたりが出会ったのが神戸とお聞きしていますが。

わたせ ええ。父は絵の道を目指して芸大を受験していましてね。でもなかなか通らず、当時神戸におられた画家の小磯良平さんを訪ねたらしい。自分の絵を好きな画家に見てもらいたかったんでしょうね。結局そのまま神戸に居ついて関西学院大学に入り、当時神戸にたくさんあった倉庫会社のひとつに就職が決まった。その会社に初出勤したときのデスクの前が、のちにお袋になる女性の席だったというわけです。

かしの そうでしたか。実は私の両親も父が広島、母親は鳥取で両方とも港町の出身なんです。そのふたりが神戸で出会って私が生まれたもんですから、わたせさんと一緒や!とずっと勝手に親近感を持ってたわけです(笑)。

わたせ なるほど(笑)。僕は戦時中に生まれたから、空襲を避けるためにすぐ神戸から親父の実家に移ったんです。だけど小学生のとき六甲の叔母のところに預けられましてね。その当時の神戸がとても強く印象に残っています。お袋と親父が恋愛した場所だっていうのもあったんでしょうね。僕の知らないところでDNAが神戸を求めていたというか。

かしの なるほど(笑)。僕は戦時中に生まれたから、空襲を避けるためにすぐ神戸から親父の実家に移ったんです。だけど小学生のとき六甲の叔母のところに預けられましてね。その当時の神戸がとても強く印象に残っています。お袋と親父が恋愛した場所だっていうのもあったんでしょうね。僕の知らないところでDNAが神戸を求めていたというか。

わたせ 「ハートカクテル」の第1話“バラホテル”はまさにそうですね。トアロードにあったおしゃれな喫茶店がモデルなんです。父親と母親が恋愛した、トアロードのね。いつも言うんですよ、お袋が。「ふたりで歩いたあそこ」とかね。神戸が描かせてくれたのだと思いますよ、あのお話は。

1945年神戸市生まれ、北九州市小倉育ち。早稲田大学法学部卒業。サラリーマン生活の傍ら漫画の制作を始める。1985年漫画家として独立。都会的な男女の恋愛を描いた代表作「ハートカクテル」を初め、日本の美しい四季と夫婦愛の物語「菜」(共に講談社刊)など多数発表。イラストレーターとしても官公庁および民間企業の広告を手がけ幅広く活躍、国内外で展覧会を開催し好評を博している。1987年「私立探偵フィリップ」(実業之日本社)で第33回文藝春秋漫画賞受賞。2005年「環のくらし応援団」として活動、環境大臣より感謝状を授与される。

神戸の街には、恋が似合う。

樫野孝人(かしのたかひと)/須磨区在住・昭和38年生まれ
樫野孝人(かしのたかひと)/東灘区在住・昭和38年生まれ

飛松中学、長田高校、神戸大学卒業。リクルートを経て、(株)IMJの代表取締役社長に就任し株式公開。2009年神戸市長選挙に立候補するも惜敗。現在、(株)OKwave取締役、Kiss FM取締役を務めながら神戸リメイクプロジェクト代表として神戸の活性化を推進中。また広島県庁の広報統括責任者、京都府参与として地方自治体の改革も手掛けている。新著は「地域再生7つの視点」(カナリア書房)

かしの 街の持ってるブランドだと思うんですけど、風景と街のたたずまい含めて、神戸には恋が似合うっていうのありますよね。

わたせ そうなんですよ。神戸は横浜とは違う。横浜がアメリカだとすると、神戸はヨーロッパなんですね。ヨーロッパには恋が似合う。旅のロマンというか、なにか恋人たちにとってうれしい街なんじゃないでしょうかね。絵になりますもん、神戸って。ただ、あの震災のあとはちょっと変わってしまった…。

かしの ええ、たしかに街はきれいになったんですが、きれいにし過ぎて色気がなくなってしまったところもあります。そこを、昔のようにいい意味で色気のある街にしていけたらいいですよね。

わたせ うん、やっぱりそういうところがないと街にも魅力がないですよ。人間でもそうですけど、色気があるってことは、深みがあるということです。なにか街全体の深みとしての色気が人を惹きつけるんです。表面的にきれいなだけの街では何か物足りない。人間の感情が表れている街、涙が流れた街、汗が流れた街っていう街は、それは魅力的で、海外でもそういう街に行くとなにか高揚します。ドラマを描きたくなる街なんですね。そういう意味での色気はとても大切なものだと思います。

きのうより今日いいものを創る。

かしの 最後に、創作活動を続けていくうえで大事になさってることはなんですか。

わたせ それは、「きのうより今日いいものを創る」ということです。いつもその姿勢です。「まあいいか」ってのはダメですね。締切り伸ばしてでも、もうちょっと推敲するからとこだわってやります。それにやっぱり描いてるときが楽しいんでしょうね。これが一番だと思いますよ。常にチャレンジするっていうんですか、そういう新鮮な気持ちがないとだめなんじゃないでしょうか。

かしの これからやってみたいこと、チャレンジしたいことってどんなことですか。

わたせ 「ハートカクテル」ではウエストコーストみたいなね、神戸をバックにウエストコーストの空気感、色を取り入れて作っていきました。次はパリの「橋物語」を今、構想中です。上海も良いですね。日本を含め世界各地の街の色彩にチャレンジしていきたいですね。

かしの 上海も色気のある街ですよね。

わたせ そういうところが好きなのが悪い癖なんですよね(笑)。

かしのたかひと今回のツボ

「裕ちゃんを探せ!」創刊2周年を記念して、大好きな「ハートカクテル」の著者わたせせいぞうさんに対談をお願いしました。わたせさんは想像通りの粋で素敵な方でした。男女が出会い、恋に落ち、ハッピーな事もあればホロ苦い事もある。そんな絵になる街・神戸の空気感と色彩を見事に表現したわたせさんの作品世界が神戸ブランドのイメージだと思います。デザイン都市の具現化はハコモノの建築だけではなく、街の色気と深みを甦らせていくことを並行して行っていきたいですね。それに呼応するように、「プロポーズの日」や「ロマンスの日」が制定されたり、愛の伝書鳩協会が立ち上がったりと、恋の街を盛り上げる動きが盛んになってきています。結婚式の衣装という観点でもファッション都市・神戸はピッタリ、引き出物のスイーツも神戸は日本一、ジュエリーについてもパールが強いわけです。披露宴で神戸ビーフを食べ、灘のお酒を振舞う。宿泊することでホテルも潤い、参列者で観光も賑わいます。そして二人の思い出の地として、いつまでも記憶に残るわけです。そんな神戸に戻るために、街の茶目っ気と、人を受け入れる開放感、懐の深さを地域に根付かせていきたいものです。ちなみに、「かしのたかひと」は「樫野」という漢字が難しいので平仮名にしていますが、「わたせせいぞう」さんの表記に影響を受けているのは言うまでもありません(笑)。

取材協力

アップルファームギャラリー第68回企画展
SEIZO WATASE
ORIGINAL CALENDAR BACK NUMBER
−オリジナルカレンダーバックナンバー展−

【会期】2012年3月20日(火)~4月22日(日)
【会場】≪成城≫アップルファームギャラリー
【所在地】東京都世田谷区成城5-2-15
【営業時間】11:00~18:00(最終入場17:30)
【休廊日】月曜日
※月曜が祝祭日の場合も休廊入場は無料
【お問合せ】TEL.03-5429-7703
http://apple-farm.co.jp

『スペシャル粋トーク』の一覧へ